「君の原稿は面白くない」と言われた日から考えていること
「君の原稿は、面白くない。」
ネットニュース記者をしていたころ、デスクにそう言われては、いつもビクビクしていました。 構成が悪いわけでも、誤字があるわけでもない。 それなのに「面白くない」と言われる。
――いちばん答えの出しにくいフィードバックでした。
はじめは「事実をきっちり書けていればいいじゃないか」とか、ぶーぶー思っていましたが、今振り返ると、あの言葉の意味がようやくわかります。 「面白くない」というのはつまり、「読者の心が動かない」ということなんですよね。
■ 情報として正しい。でも、心は動かない原稿
当時僕が書いていたのは、製薬企業の決算記事。 業界動向、売上高、経営者の発言・・・など、数字や事実を間違いなく整理することに神経を尖らせ、正確さを何より重視していました。
だから内容は間違っていなかった。でも、(だからこそ)致命的に面白くなかった。
たぶん僕の記事は、読んでも何も感情が残らない原稿だったのだと思います。 真っ赤に修正された原稿を見つめながら、「自分はいつになったら一人前になれるんだろう」と遠くを見つめていたのを覚えています。
あれから10数年。 いまは人の原稿を直す立場になってみて、当時の自分と同じように「正しいけれど、心が動かない文章」に何度も出会ってきました。
意味はわかる。論理も整っている。 でも、翌日にはもう内容を覚えていない。
もし仕事じゃなかったら、クリックすらしないかもしれない。
そういう原稿の見覚えのある編集者の方は、案外多いのではないでしょうか。