「自分よりも詳しい人はいるから」と発信をあきらめる人に言いたい

「書くことがない」のではなく、見えなくなっているだけ。強みは、身についた日に透明になる。編集は「釣り船の船頭」に似ている、という話。
まむし 2026.07.13
誰でも

こんにちは、まむしです。

今回は、「『自分には知見なんてない』と言う人に、どう自信を持ってもらうか」について考えます。

きっかけは母の本づくりでした。

母には、本づくりの途中で急に弱気になる瞬間があります。「自分にはそんな専門的な知見はない。だって、自分のケースしか知らないんだから」。

でも僕は知っています。母がこれまで、たくさんの介護者や医療者と話してきたこと。義理の父母と、実の母の介護でどれだけ苦労してきたか。

たった一人のケースかもしれない。それでも、その中にある知見を僕は信じています。そんなもんじゃないでしょ、と言いたくなるのです。

そしてこれは、母に限った話ではないと思うのです。

■ 「自分より詳しい人は、もっといますよ」と流される場面

書き手の方と話していると、「自分より詳しい人は、もっといますよ」と流される場面によく出会います。

第一線で頭を抱えながら頑張ってきた人。たくさんの悩みに親身に耳を傾けてきた人。いろいろな勉強会に顔を出し、勉強を重ねてきた人。

はたから見ると「すごく詳しい」のに、本人にそれを伝えると、だいたい同じ反応が返ってきます。「もっと詳しい人は、いますよ」

強みは繰り返して身につくものなので、身についた日に、本人の中で透明になります。

それに、詳しい人の周りには詳しい人が集まるので、そうすると余計に自分の色が見えにくくなるんだろうな、とも思います。

「書くことがない」と悩んでいる人の何割かは、ネタがないのではなく、ネタが透明になっているだけだと思っています。

■ 編集の仕事は、釣り船の船頭に似ている

母の本を進めながら思うのは、編集の仕事は「釣り人と、船を操縦する船頭」の関係に似ている、ということです。

書き手が釣り人で、編集者が船頭。

「この辺に魚がいるんじゃないか」と話しながら、一緒に船を動かす。釣れなければ、えさや切り口を変えてみる。どこに強みや面白さが眠っているのかを、魚群を探すように一緒に探り当てていく。

本はボリュームが大きく、放っておくと際限なく広がります。何を伝えて、何を伝えないか。どこに釣竿を垂らすかの判断が、そのまま本の輪郭になる。

どこに熱が入るか。どこが面白いのか。それを一緒に探り当てて、えさを引き当てる感覚が、書き手に寄り添う仕事では求められている気がしています。

そして、見事えさを引き当てて「魚が引いてる、引いてるぞ!!!!」となったときの感慨はひとしおです。生みの苦しみというのでしょうか。でも、とても爽快です。

■ 船頭として、僕がやっていること

透明な強みが釣り上がるまでには、段差が2つあります。そもそも本人に「見えない」ことと、見えたあとに「こんなの、発信しても誰にも興味を持たれないんじゃないか」と思ってしまうこと。

僕が使っている道具は3つで、最初の2つは「見えない」用、最後の1つは「興味を持たれない気がする」用です。

1つ目は、世間の標準ラインを鏡として差し出すこと。フレーズはほぼ決まっていて、「普通の人は、そこまでやりませんよ。なんでやるんですか?」です。

本人の中に基準がないので、外から「普通」を持ち込んで、差分を本人に発見してもらう。取材慣れしていない方と話す場面でも、これはよく使います。

2つ目は、時系列を並べて差分で聞くこと。当たり前になったことは単体では語れませんが、「1回目のときと3回目のとき、何が変わっていた?」という比較なら語れるからです。

3つ目は、「発信する価値があるか」の判定基準を置き換えること。立派な方法論になっているかではなく、同じ場面で困っている人がその場でマネできるか。当たり前になるまで繰り返した回数そのものが、その情報の信頼性だと思うのです。

発信をしたいと思っている人は、小さな習慣として、人から「それ、どうやってるんですか?」と聞かれた瞬間にメモしておくのもおすすめです。聞かれたということは、そこに魚がいるという、他人からの証言なので。

■ 今週の議題

さてさて、前回に続き、皆さんの「掘り当てるための工夫」を聞かせてください。

相手は書き手でも、取材相手でも、自分自身でもかまいません。「自分には知見なんてない」と言う人から透明になった強みを掘り当てるとき、皆さんは何をしていますか。

決まり文句ひとつ、質問の仕方ひとつでも大歓迎です。集まった工夫は、この場で「みんなの道具箱」にして返します。

正直なところ、僕の道具3つだけでは釣り上げられない場面がまだあります。。皆さんの船頭ぶりを教えてもらえたら、さっそく現場でまねさせてください。一言だけでも、ぜひ…!

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それでは、また来週!

***

編集後記(先週の議題へ、お一人ずつ)

先週の号では、母の本づくりを題材に「まじめな話を、そのことに興味がない人にどう手渡すか」を考えました。読んでもらうまでの道のりを、①興味を持ってもらう、②理解してもらう、③行動してもらう、という3つの関門に分解して、「皆さんは自分のコンテンツで、読者をどこまで動かそうとしていますか」という議題を出したのでした。

すると、いくつか反応をいただきました(まじで、ありがとうございます!!!!)。

まむし🐣
@mams428
ニュースレターでお薦めいただいた本を読んでいる。めっちゃ参考になる
2026/07/12 11:42
0Retweet 4Likes

並べて驚いたのは、皆さんの答えがそろって「①興味を持ってもらえたら十分」だったことです。

つまり、②理解や③行動まで作り手が背負い込むのではなく、まずは「①興味を持ってもらうこと」に特化して考えるべきだ、ということ。

②と③の間でひとり迷子になっていた僕には、目からうろこの結論でした。

今週は、お便りを紹介するような形で、お一人ずつお返事させてください。

まず、ライターの方から。

「①に1票です。本は一方通行のコミュニケーションだと思うのですが、興味をもてれば、理解するまで何度も読み返すことができるツールだと思います」

なるほど、と膝を打ちました。

本は読者の手元に残るメディアです。興味さえ持ってもらえれば、何度でも開き直してもらえる。つまり②の理解は、本そのものが引き受けてくれる。だから作り手は、①の入り口に総力を挙げていい、という考え方です。

あわせて教えていただいた『実践 行動変容のためのヘルスコミュニケーション』、さっそく読みます。

続いて、議題ごと考えてくださった方から。

「工夫するなら、『物語から入ってもらう』だなと思いました」

例に挙げてくださったのは、冒頭に漫画を置いて自分ごと化させる本や、『きのう、何食べた?』のように、主題を訴えることが主題ではない物語の受け入れやすさ。

まじめな中身は、物語という扉の奥に置いておく。母の本のタイトルや構成に、そのまま効かせられそうです。

紹介いただいた、三宅香帆さんの「巧みなミスリード」を分析した綾野つづみさんのnoteも面白かったです。

看護系メディアの編集者の方から。

「書店員さんが迷わず『これは一般向けの健康・医学の棚だな』と思ってもらえるように、逆算してタイトル・内容を考える」

これがいちばん耳の痛い指摘でした。

棚を間違えて専門書の扱いになると、興味のない人とは物理的に出会えなくなる。売り場から逆算する視点で、タイトル案の見直しを始めています。

「身近な『もしも』は家族とは限らない」と書いてくださった方から。

「大切な友だち、まだ見ぬ知人が当事者になる可能性に備えたい。傷つける物言いや不要な励ましをしたくない、間違えたくない」

この入り口は、正直まったく想定していませんでした。

自分のためではなく、誰かを傷つけないための興味。読者の動機として、大事に覚えておきます。

最後に、漫画やゲームがお好きな方から。

「自分の知っている、興味がある分野に『それ』が現れたとき、興味を持つ」

好きな漫画の主人公のお母さんががんになる。好きな漫画家さんが、その本の表紙を描いている。そんな入り口です。

興味は主題からではなく、その人がすでに好きなものの側からやってくる。「笑ってもいいシーンがあると、読者は最後まで読んでくれる」という視点も、まじめな本ほど必要な気がします。

そして、ひとつ反省を。

お問い合わせフォームに、投稿者の方のアドレスを記載できるようにしておけばよかった…。個別にお礼を言いたかったのですが、この場を借りてですみません!

いただいた工夫は母の本で実際に試して、この場で結果を報告していきます。本当にありがとうございました。

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